A. 出産時の破水や陣痛発来時に抗生剤の点滴をしますが、症状があれば出産時でなくても腟錠での治療対象になります。
来月お産予定という妊婦さんから、このような質問がありました。
GBSとは、正式名はStreptococcus agalactiaeという名前で、和名ではB群連鎖球菌(Group B Streptococcus)の頭文字をとってGBSと言い、肛門、腟、会陰部の皮膚にいると言われています。GBSは、性感染症の菌ではありませんが、Sex associated disease(性行為関連疾患)の菌に位置付けられています。
全妊婦の10~30%が保菌しているとされるGBSは、保菌者である母体に対して悪い症状を現すことは少なく、出産時に産道を通って生まれてくる赤ちゃんに感染することが問題になります。GBSを保菌している母体から出生する赤ちゃんへは、50%の確率でGBSが移行しますが、そのうち髄膜炎や肺炎などの新生児重症感染症を発症するのは約1%と言われています。このように、GBS感染症の発症率は低いです。しかし、発症した場合、5人に1人の赤ちゃんは死亡または障害を残し、予後は不良です。このため、赤ちゃんのGBS感染症を減少させる目的で、分娩時にペニシリン系抗生物質の点滴を行います。お母さんに点滴をした薬剤が、胎盤を通って赤ちゃんへ移行していくので、胎児治療になります。ですから、分娩時に点滴をしないと意味がありません。
だったら、GBSが判明した時点で、母体からGBSを排除するように治療をして、出産時にはGBSが存在しないようにするべきではないか?という疑問が湧きます。もちろん、それができれば最高に良いと思います。これをしない理由は、GBSは一度治療をしても、再び陽性になる率が高く、GBSの保菌が判明した時点で治療をしてもしなくても破水や早産になる確率には差が無いことが分かっています。このように、分娩時以外に点滴をするメリットがあまりなく、かえって費用がかかることから、分娩時以外の治療は積極的にはしていません。しかし、産まれたばかりの赤ちゃんは、病原菌に対して抵抗力が弱く、大人では病原性を示さない菌でも、赤ちゃんにとっては致命傷になることがありますので、生まれたばかりの赤ちゃんに点滴する代わりに、お母さんを通して赤ちゃんに抗生剤が行くようにしています。
しかしながら、最近の研究では、細菌性腟症(何らかの原因で腟内の常在菌である乳酸菌が減り、GBSやマイコプラズマ、ウレアプラズマ、嫌気性菌などに置き換わった状態)が切迫早産と関係があるという報告も増えてきており、おりものが増加したり、魚の生臭いにおいの症状などがある場合で、20週以前であれば、フラジール腟錠を使った治療をすることで、切迫早産を防げるというデーターもあります。
妊娠中は妊娠前に比べておりものの量がたいてい増える傾向にありますが、おりものの増加や臭いが気になる場合は、細菌性腟症の可能性もあるので、主治医の先生と相談しておりものの検査をしてもらいましょう。