「おりもののにおいがキツくなった」、「以前とおりものの性質が違う」などおりものの変化があったときは、細菌性腟症の可能性があります。
細菌性腟症とは?
細菌性腟症は、以前は非特異的腟炎と呼ばれ、性感染症の原因菌以外の菌によって起こる腟炎と考えられていましたが、現在は、腟の善玉菌である乳酸桿菌(Lactobacillus属の菌)が減少して、代わりにガードネレラ属の菌、ヘモフィルス属の菌、嫌気性菌やマイコプラズマ属、ウレアプラズマ属などが過剰に増殖し、これら複数の菌が「バイオフィルム」を形成して起こる病態として考えられています。
腟の善玉菌である乳酸桿菌は、腟内に多く存在するグリコーゲンを栄養源として乳酸を産生し、腟内を酸性(pH:3.8~4.5)に保つことで雑菌の侵入を防いでいます。これを「腟の自浄作用」といいますが、何らかの原因で乳酸桿菌が減ってしまうと、腟内の酸性度が低下して、別の細菌(雑菌)が繁殖して腟内の細菌叢が乱れ、雑菌がタンパク質を分解して産生する物質(アミン)や毒素によって、イカ臭い・生臭いイヤなにおいが発生します。この状態が細菌性腟症になります。
症状は?
細菌性腟症は、女性全体の10~30%が罹患していると言われており、その半数は無症状なことが多いです。
おりものの性状は、灰色のスキムミルク様で多く、魚のような臭い、俗にいう「イカ臭い・生臭い」臭気が細菌性腟症の特徴的な症状です。臭い以外の症状として、おりものの増加が44%、下腹部痛が34%、不正出血が22%に見られるとの報告もあります。
ここで、細菌性腟炎の時との違いは、痛み、痒み、排尿時の違和感などの炎症があるときにみられる症状は、細菌性腟症の時には軽度であることです。
さらに、腟内で異常に増殖した病原細菌が、子宮の方に上行感染すると、子宮内膜炎や卵管炎、骨盤腹膜炎などが起こり、不妊症の原因になることも指摘されています。
細菌性腟症になる原因は?
今考えられている原因説は2つあります。
仮説1:腟内アルカリ化説
正常な腟の酸性度はpH:3.8~4.5ですが、pHが5以上になると嫌気性菌などの雑菌の繁殖が増えることがわかっています。では、pHが5以上になる原因とは何か?
射精液に含まれる前立腺液はアルカリ性ですので、腟内射精が原因との説があります。腟内射精後、女性の腟のpHは8時間ほどアルカリ化されたままだったという論文があります。しかし、この説はあまり有力ではありません。コンドームを使用してもしなくても、細菌性腟症の発症頻度に違いは無かったという論文もあるからです。
仮説2:腟の自浄作用の破綻が原因説
この仮説の主要な原因は、セックスの頻度です。セックス後、腟の自浄作用が回復するまでには時間かかります。よって、自浄作用が回復するまでの間に、頻回に性行為があることで細菌性腟症が起こることが考えられます。これを裏付けるものとして、特定のパートナーとの性行為だけでも、男性パートナーのペニスや尿道にいる菌と同じ菌が腟から検出されたり、パートナーが女性同士でも同じ菌を共有して細菌性腟症を発症するケースが実際にあります。要するに「ヤリ過ぎ」は良くないということですね。
私のクリニックに来る細菌性腟症で悩む患者さんは、風俗系のお嬢さん、パートナーが何人もいるお嬢さん、腟を洗いすぎているお嬢さんに多い印象です。
どうやって診断するの?
ズバリ、おりものの検査です。おりものの検査と言っても、培養の検査ではなく、顕微鏡の検査です。おりものをグラム染色という特殊な染色をして顕微鏡で見ますので、すぐにわかります。細菌性腟炎では炎症細胞が多くみられますが、細菌性腟症では、炎症細胞はほとんど見られないのが特徴です。おりものの培養検査で細菌が何種類も出た場合、細菌性腟炎なのか細菌性腟症なのかは判断できません。炎症細胞がたくさん見られる場合は、トリコモナス、淋菌、クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマなどが、主な原因になっている場合がありますので、性感染症の検査項目も追加して調べる必要があります。原因が性感染症の場合は、腟炎の治療だけでは治りません。
細菌性腟症の治療は?
細菌性腟症の治療は、フラジール腟錠です。クロマイ腟錠で治療している医院もありますが、細菌性腟症のことが良くわかっていないと思います。細菌性腟症の改善には、善玉菌の乳酸菌の働きである腟の自浄作用を回復させるのが最も効果的です。クロマイ腟錠は、善玉菌である乳酸菌も殺菌してしまいますが、フラジール腟錠は乳酸菌までは殺菌しないので、腟の細菌叢を整え、腟の自浄作用を回復させるには相応しいお薬になります(2020産婦人科診療ガイドラインにも記載があります)。
乳酸菌サプリメントの摂取などの補完療法も、腟の自浄作用に効果的であるという論文もあります。日頃からご自身でできることとして、乳酸菌を摂取しておくことは良いことだと思います。
おりもののにおいが気になって、外出を躊躇ったり、スカートが履きづらくなったり、恋愛に積極的になれなかったりなど、細菌性腟症は、女性のQOLを低下させる病気として捉える必要があります。「においは人それぞれだから」とか、「性病ではないから大丈夫」と言われて、何も治療してもらえないことがしばしばあります。しかし、このようなQOLの低下で悩んでいる方には何の解決にもならず、病気なのか病気ではないのか良くわからないまま過ごさないといけないのはとてもつらい状況を作るだけです。
細菌性腟症は、症状があれば、もちろん治療対象ですが、症状が無くても、なるべく積極的に治療すべきであると私は考えます。近年では、細菌叢である腟内フローラ、子宮内フローラを健康に保つことが、妊娠に良い影響をもたらすことが分かっていますし、妊娠した後も細菌性腟症は流早産の原因につながることが分かっています。妊娠に関係なくても、子宮内膜炎、卵管炎、骨盤腹膜炎に波及する症例も実際に報告されており、細菌性腟症は、もはや治療すべき疾患なのです。このようなデリケートなお悩みを少しでも改善することが、女性の健康には大切なことだと考えています。