エイズ(後天性免疫不全症候群)は、1981年にアメリカで特殊な免疫不全による非日常的な感染症を発症して死に至る症候群として認識され、1983年に原因がヒト免疫不全ウィルス(HIV)と同定された歴史の浅い疾患である。
その後、治療法の進歩によって、強力な抗HIV薬を複数併用する治療でほぼ100%効果があり、一般の人とほぼ同等の生命予後を期待できるようになっている。しかし、現時点での治療は、HIV感染症を根治させるまでの効果は無く、生涯にわたって抗HIV薬の内服継続が必要になる。
<HIV感染症の診断と検査>
HIV感染症の原因ウィルスはHIV-1とHIV-2であるが、日本ではほぼ前例がHIV-1である。
HIV感染症の診断は、抗HIV抗体とHIV抗原の両者を検出する検査(第4世代検査)でスクリーニングを行い、この陽性者に対して、HIV RNA量の測定またはWB(ウェスタンブロット)法の2段階で検査を行い診断する。第4世代検査では疑陽性率が0.3%、簡易迅速抗体検査キットでの疑陽性率は1%程度あるので注意が必要である。
<HIV感染症の進行病態把握>
病態期の進行度の把握はCD4陽性Tリンパ球(CD4)数、治療効果は血漿HIV RNA量で判定する。(CD4数の正常値:700~1300/mm³)
初期HIV感染症:CD4数500/mm³以上、HIV RNA量100万copies/ml。
中期HIV感染症:CD4数200~500/mm³
後期HIV感染症(AIDS期):CD4数200/mm³未満
<HIV感染症の病期>
HIV感染症は、初感染期、無症候期、エイズ期に分けられる。
初感染期:HIV感染後2~6週間に初発症状として、半数以上の感染者に何らかの症状が出る。(発熱96%、リンパ節腫脹74%、咽頭炎70%、皮疹70%、筋肉痛/関節痛54%、頭痛32%、下痢32%、嘔気嘔吐27%)
無症候期:初感染期の症状が消失し、エイズ期に至るまでの数年から十数年の期間(個人差が大きい)。症状が出ないだけで、体内ではHIVが量産されCD4陽性Tリンパ球は破壊され続けている。
エイズ期:HIV感染者の免疫機構が破綻した時期。
<エイズの診断>
エイズ指標疾患(23疾患)が認められた場合(後述の表)。
<治療>
現在、日本では24種類の抗HIV薬が使用可能。HIV感染症と診断されたら、できるだけ早く治療を開始。エイズを発症し抗HIV療法をしない場合は2年以内にほぼ100%が死亡する。身体障がい者手帳(ヒト免疫不全ウィルスによる免疫機能障害)の手続きをすることで、医療費の自己負担を軽減する制度が利用でき、長期にわたる治療の継続の経済的な助けとなる。
<治療目標>
治療の成功は、血漿HIV RNA量を検出限界以下にまで抑制することである。現在、日本では20copies/ml未満まで検出可能だが、世界的には50copies/ml未満でも十分に同等の効果があると考えられている。通常は治療開始24週以内に検出感度未満(高くても200copies/ml未満)が達成されなければならない。「血漿HIV RNA量を検出限界以下にまで抑制する」かつ「CD4陽性Tリンパ球数が200/mm³以上」になれば、エイズ指標疾患はほとんど消失し、HIV感染者の生命予後も劇的に改善することになる。治療効果が不十分な場合の原因は、患者の内服率低下がほとんどである。HIVは高度に変異することが知られており、中途半端な服用により薬剤耐性ウィルスの出現を許してしまう。初回の抗HIV薬の服用を継続して、ウィルスの複製を徹底的に抑制しなければならない。
<予後に関して>
HIV感染の段階で抗HIV療法が開始されれば、一般の人と同程度までの延命が期待できる。エイズ期で治療を開始した場合には、10~20%の死亡率である。したがって、早期に検査で発見し、早期に抗HIV療法が開始できれば、患者自身の生命予後を改善するだけでなく、HIV伝播を減少することにもなるので、新規の感染者を減らすことができる。
<性感染症としてのHIV>
HIV感染者との性行為によりHIVに感染する確率は、コンドーム非使用男性→女性0.1%(1000回に1回)、コンドーム非使用女性→男性0.05%(2000回に1回)、コンドーム非使用アナルセックス受け入れ側0.5%(200回に1回)、コンドーム非使用アナルセックス挿入側0.067%(1500回に1回)、男性同士フェラチオ(受け入れ側)0.01%(1万回に1回)、男性同士フェラチオ(挿入側)0.005%(2万回に1回)。コンドームを使用した性行為では、これよりも確実に低い確率になる。ちなみに、職業的暴露では、針刺し事故0.3%(1000回に3回)、粘膜暴露(血液が目に入る)0.09%(1万回に9回)である。
<エイズ指標疾患>