A. 咽頭の淋菌は、性器の淋菌よりも治癒しにくい理由があります。
性行為の多様化により、性感染症の原因菌は性器のみならず、咽頭にも感染することが近年増えています。咽頭に感染する性感染症は、クラミジア、淋菌、梅毒、マイコプラズマ、ウレアプラズマ、ヘルペス、カンジダなど様々です。中でも淋菌は、咽頭に感染すると、薬剤耐性を獲得しやすくなり、その結果お薬が効きづらくなります。
それはいったいどういうことでしょう?
もともと口腔内には、淋菌の親戚であるナイセリアに属する無害な菌が常在菌として存在しています。淋菌の学名は、Neisseria gonorrhoeaといい、人の氏名でいうところの名字に当たるNeisseria(ナイセリア)が同じ親戚関係の無害なナイセリア菌が、口腔内には常にいるということになります。この口腔内に常在菌として存在するナイセリアに属する菌が、性感染症の原因である淋菌の薬剤耐性の獲得に大きく関わっていることが、近年の研究によってわかってきました。
日本では風邪など、本来は抗生物質 が不要な病気に対して、むやみに抗生物質を投与することがあります。さらに、飲んだり飲まなかったり中途半端な服用を繰り返すと、口腔内の常在菌である無害なナイセリアに属する菌も、自分の身を守るために抗生物質に対して耐性を獲得します。
そこに、オーラルセックス(口腔性交)によって性器にいた淋菌が口腔内にうつり、口腔内にいる薬剤耐性を獲得してしまったナイセリアに属する菌と出会うと、両者は親戚同士なのでお互いに遺伝子をやり取りしやすく、耐性遺伝子を簡単に淋菌に伝えてしまうのです。この薬剤耐性遺伝子を獲得した淋菌を「スーパー淋菌」といい、最も注意しなければならない菌として世界で注目されています。
スーパー淋菌を発生させないためにも、必要のない抗生物質の投与や、中途半端な服用は避ける必要があります。