A. 理論的には経口避妊薬の服用初期はカンジダが繁殖しやすい環境になりますが、低用量ピルでは証明されていません。
「低用量ピルを服用しているとカンジダになりやすいとインターネットで見かけましたが、本当ですか?」と患者さんから質問がありました。さっそく、その情報を確かめにネット検索をすると、なんと、あるクリニックのホームページに載っていました!書いてあることは、いかにも本当っぽく書いてあります・・・。果たして、真偽のほどは?
確かめるために文献を調べました。経口避妊薬を服用している群と、していない群での口腔内カンジダの保有率を比較した研究があります。結果は、経口避妊薬を服用している群で口腔内カンジダの保有率が高い結果でした。しかし、保有率が高いのみで、症状には差がありませんでした。ここで興味深いのは、腟の検査ではなく口腔の検査であることです。経口避妊薬を服用していると、コンドームをしないセックスをする頻度が高くなるので、腟の検査では、コンドームレスによるカンジダ感染のリスクが入る可能性がありますが、口腔の検査の場合は、コンドームレスによる感染リスクは排除されるので、経口避妊薬服用によるカンジダのコロニー形成の結果を純粋に反映していると思います。したがって、経口避妊薬を服用しているとカンジダの保菌率は高いということが言えると思います。しかし、この論文の問題点は、どのようなタイプの経口避妊薬だったかについては記載がありませんでしたので、低用量だったのか、中用量だったのか、プラノバールなのかトリキュラーなのかマーベロンなのかなどは分かりませんでした。また、ピルを服用していない人をこれから服用する群と服用しない群に分けて、服用前の口腔カンジダ検査の陽性率に両群間で差が無い状態でピルを服用してもらい、その結果で服用した方にカンジダ陽性率が増えているのなら、ピルの服用によって有意にカンジダが生じやすいと言えると思います。要するに、今回の研究では、2群に分けた際にカンジダの検査をしていないので、ピルを服用している人たちにカンジダを持っている人が多くいたかもしれないので、ピルを服用したことによってカンジダが増えたとは明確には言えないと考えます。一方、エストロゲンが上昇するピル服用初期にカンジダの発症がみられるという論文もあります。一般的に、妊娠中は胎盤から大量のエストロゲンが分泌されるため、カンジダが繁殖しやすくなると言われています。ピルの服用初期にも、一時的にエストロゲンの血中濃度が上昇するので、カンジダが繁殖しやすくなるのは理論的にあり得ると思います。
さて、このクリニックのホームページに書いてある内容を吟味してみると、低用量ピルでカンジダが繁殖しやすくなることについては正しいと思います。しかし、その説明には誤りがあります。「妊娠中はプロゲステロンが大量に分泌されることにより腟内のpHが酸性に傾きカンジダ菌が繁殖しやすい環境になる」は誤りで、「妊娠中はエストロゲンが大量に分泌されることにより腟内にいる善玉菌のデーデルライン桿菌が繁殖し、腟内が酸性に傾きます」が正しいです。また、「カンジダ菌はエストロゲン様物質を放出することで、排卵が無かったり、生理不順になることがあります」は誤りで、「カンジダ菌はエストロゲン様物質を放出しませんので、無排卵や生理不順を引き起こすことは証明されていません」が正しいです。さらに、「カンジダ菌はその遺伝子(DNA)の中に、エストロゲンと結合するタンパク質を合成するコードを持っていることがわかりました。カンジダ菌が増えるとこのタンパク質が大量に作られ、エストロゲンが過剰に産生していると錯覚し、肝臓に達しエストロゲンを作らなくなる可能性が高いことが報告されています」については、前半は正しいのですが、後半の「カンジダ菌が増えるとこのタンパク質が大量に作られ、エストロゲンが過剰に産生していると錯覚し、肝臓に達しエストロゲンを作らなくなる可能性が高いことが報告されています」については、カンジダはエストロゲンと結合するたんぱく質を産生するのであって、エストロゲンを産生しませんので、「エストロゲンと結合するたんぱく質をカンジダが産生することによって、エストロゲンとカンジダが結びつきやすくなり、カンジダが繁殖しやすくなります。妊娠中やピルの服用の初期はエストロゲンが過剰になるので、カンジダになりやすくなると言えます」とした方が良いでしょう。
このような誤った情報をクリニックが堂々と発信していることに、本当に強い憤りを感じます。