A. 骨盤内炎症疾患(PID)は不妊症や異所性妊娠等の深刻な後遺症を起こします。
「妊活を頑張ってますが、なかなか妊娠しません。何らかの病気になっているんじゃないかと不安です」という既婚の女性からのご相談です。そして、症状を尋ねると、「ジャンプすると下腹部が痛い」と教えてくださいました。
これを聞いて、骨盤内炎症疾患(PID)の可能性があると考えました。
不妊症の原因となる骨盤内炎症性疾患(PID)の原因菌は、性感染症に限らず、性感染症以外の一般細菌でも起こりえます。(もちろん、卵巣腫瘍の捻転・破裂、異所性妊娠(子宮外妊娠)、虫垂炎、子宮内膜症などを鑑別しなければなりません)
・PIDに関連する性感染症の原因菌:淋菌・クラミジア・マイコプラズマ・ウレアプラズマ。
・PIDに関連する一般細菌:大腸菌・ブドウ球菌・連鎖球菌などの好気性菌、バクテロイデス・ペプトストレプトコッカス・放線菌などの嫌気性菌。
です。
PIDの診断は、下腹部痛(階段を降りるときの振動で痛む)、内診で子宮を触られると痛いというだけで診断になります。加えて38度以上の発熱がある、血液検査で、白血球増加、炎症指標のCRPの上昇があればさらに確実性が増します。
PIDは、手遅れになると手術をしなければならなくなることもしばしばですので、早期診断・早期治療が大切です。私の体験談で、30代女性の下腹部痛でPIDを疑い手術をしたところ、子宮と卵巣の周りに膿があり、放線菌が検出されたことがありました。このように、性感染症以外のいわゆる細菌性腟炎によっても起こる可能性があります。
女性は、腹腔内と膣は、子宮や卵管を通じてつながっています。髪の毛ほどの小さな卵管の内腔に炎症が起こると癒着によって閉塞したり、卵管采という排卵された卵子をキャッチする手のひらのような臓器も癒着によって、あたかも手を閉じたままの状態になってしまうので、卵子と精子が出会えなくなるので不妊の原因になります。
また、PIDになってしまうと、淋菌、クラミジア、マイコプラズマ、ウレアプラズマがおりもの検査で検出されない場合があります。菌が腟にいなくても、お腹の中には存在している可能性があるので、おりもの検査をして性感染症の検査が陰性だったからと言って、PIDの原因は性感染症ではなかったと証明することはできません。また、直近の性行為が無くても子宮内の操作(中絶手術)などもPIDのリスクになります。指などで腟の中を激しく出し入れされたり、不潔な異物を膣に挿入されたりすることも、PIDのハイリスクになります。肛門性交をしたペニスをそのまま腟に挿入する行為などは、以ての外です。
ちょっと難しいお話になりましたが、腟炎や性感染症は早期発見と早期治療が重要ですので、おりものがおかしくてお腹が痛い時は、我慢せずに、すぐに婦人科を受診するようにしてくださいね。