A. 診療報酬の審査制度で認められない可能性があるからです。
今回は、一般の方には見えない、医療保険の裏側についてお話しします。
私たちが病気やけがの治療で保険医療機関を受診したときに、窓口で保険証を見せて治療にかかった費用の一部を支払います。支払った分以外の治療費は、保険者が加入している会社の健康保険組合や、市区町村の国民保険組合に1か月分の診療行為をまとめた診療報酬明細書(レセプト)を提出して請求します。その請求を元に、診療費の残りの分が数か月後に保険医療機関に支払われるという仕組みです。わかりやすく言うと、診察の日に保険証を提出することによって、3割の前金を自腹で支払い、残りの7割は後でみんなの税金から支払われるということになります。
なぜ、残りの分が支払われるのに数カ月もかかるのでしょうか?それは、健康保険を使った診療行為が、保険診療のルールに則って適正であるかを確認するために審査をしているからです。この審査では、自己負担分以外の治療費が国民の税金によって補填されるために厳しい審査になっており、適正でないと判断された場合は、税金からの補填が拒否され、残りの分が支払われないという事態が発生します。そうなると、保険医療機関は、支払われなかった分を患者さんに請求するということはせず、病院が自腹を切って支払うことになるので、損をしてしまいます。ですから、保険医療機関は、この厳しい審査に通るように、ルール(お作法)の範囲内で診療をしています。
適正でないと判断される場合はどんなときでしょう?
検査の例では、咽頭の検査と性器のクラミジアの検査を同時にすることは、保険診療では認められていません。これを回避するためには、性器か咽頭のどちらかを一方を保険にして、もう一方を自費にする。あるいは、性器の検査を保険でした翌日に、咽頭の検査を保険でする、ことは認められています。一度で検査を終わらせたい場合は、どちらか一方を自費にしなければならないのです。
次に、治療の例では、尿道炎の治療薬としてクラビット®というお薬がありますが、7日間までが保険診療のルールで、クラミジア尿道炎に効かせるために14日間服用する場合は、14日間全部自費診療にしなければなりません。こちらは、7日間が保険診療で、残りの7日間を自費診療というふうにすることはできず、保険診療なら7日間までしか出せないことなります。
治療に関しては、その地区の審査が厳しいところもあり、7日間は長いとか、1日2回ではなく1日1回の内服で十分だというルールで審査をしているところもあります。
疾患によっては、本当は2週間服用した方が効くとわかっているのに、保険診療のルールでは1週間だけしか許されていないことも多々あります。保険診療をしていると、往々にしてこのようなジレンマに直面することがよくあります。これは、患者さん側にとっては、どこの保険医療機関を受診しても、一律の料金で同じ医療を受けられるというメリットがありますが、一方で、自由診療であれば、日本の保険診療では認められていないが、諸外国ではルーチン化されている治療方法や最新の治療方法で、患者さんのニーズに合わせてお薬を処方することができたり、アグレッシブな治療ができるメリットがあります。
都会のようにたくさんの病院があるところでは、少し割高だがしっかり治療をしてもらえる自由診療の病院を受診するのか、費用を抑えるために保険医療の病院を受診をするのかは、いまや患者さんに選んでもらう時代になっています。